2009年10月12日月曜日

"Precious: Based on the Novel Push by Sapphire(「プレシャス」)"

今年のサンダンス映画祭で、グランプリ(審査員賞)と観客賞をダブル受賞という快挙をなしとげた作品。カンヌやトロント(観客賞受賞)映画祭でも絶賛され、アカデミー賞候補の呼び声も高い話題作です。

お話は、1987年のハーレムが舞台。16歳の少女プレシャスは、2度目の妊娠をしていた。父親は、自分の実の父。父は家にほとんど寄りつかず(劇中一度も登場しない)、無職で家事などもすべてプレシャス任せの母親と2人暮らしだ(1人目の子どもは、祖母に預けているらしい)。母親はプレシャスを虐待している。プレシャスは、とんでもなく太っている。友だちもいない。

ある時、オルターナティブ・スクールへの転校を勧められたプレシャスは、そこでブルー・レインという教師と出会う。ブルーは、プレシャスが文盲であることを見抜き、根気よく教育していく。ブルー先生やクラスメート(みんな落ちこぼれの問題児)との交流を通し、少しづつ、殻をやぶっていくプレシャス……。

非常に悲惨な境遇に置かれながら(というかそれ故に)、ファンタジー(つまり妄想)世界に意識を飛ばすことで、かろうじて正気を保っている子ども、というところで、ニール・ジョーダンの「ブッチャー・ボーイ」に通じるものがありますが、こちらはティーンの女の子が主人公なので、夢見るのは、美しく着飾った自分が華やかなフラッシュライトを浴び、理想の男の子と出会うという内容になってます。でも、だんだん、読み書きを覚えたり、他人と交流するようになるにしたがい、自分の本来の姿と向き合うようになります。

「チョコレート」のプロデューサーだったリー・ダニエルズの初監督作品。上映後、監督とブルー役のポーラ・パットン(とても美しい女優さん)とのQ&Aがあり、マライヤ・キャリーやレニー・クラヴィッツが出ているのは監督と友人だったからとか、サンダンス映画祭の授賞式で、まさに登壇しようとしていたところへ、オプラ・ウィンフリーが電話をかけてきたというエピソード(そんなところまで携帯を持ってくるがっついたディレクターとは私のことです、と冗談いってました(^_^))などを語ってくれました。これは、そもそも自分の母親や身内のために作った映画なのだが、こんなにユニバーサルに支持されて驚いている、とのことでした。

原作は、サファイアという詩人の「プッシュ」という小説。小説では、読み書きを覚えたプレシャスが先生に宛てて書いた日記を通し、彼女の自我の芽生えと成長を描いていく、という形式みたいですね。映画では、書くことを通し…というよりも、彼女が逆境に押しつぶされなかったのは、彼女のウィットとユーモアセンス故、と微妙に、映画的にアレンジしています。それで、非常に重い内容にもかかわらず、上映中は幾度も笑いが起きていました。ユーモアは大事だ。ユーモアセンス皆無の、プレシャスの母親は、自分を哀れむばかりで(「誰が私を愛してくれるの!?」)、そんな人には、プレシャスのように、救いの天使はやってこないのです。

監督は、「チョコレート」もそうだったけど、女性が虐待されるのはがまんならないんですって。とても優しげにしゃべる人でした(openly gayだそうです)。プレシャスを演じたギャビーという女性は、これがデビュー作で、監督もポーラもべたぼめ。彼女がレッドカーペットを歩く姿は、フィクションが現実になったようで、とても感動した、と監督は言っていました。最後の方で、プレシャスがとても輝いて見えるのは、ギャビーがそうだからで(役作りのためにしゃべり方や歩き方を普段とまったく変えたそうです)、スタッフも彼女をスターとして扱ったので、この映画で彼女はスターになったんだよ、と熱く語っていました。

観たのは、モントレーのGolden Theater。非常に歴史の古い、アールデコ調の内装が美しい映画館で、サンダンス映画祭の監督で、カーメル映画祭のキュレイターであるジョン・クーパーが、「モントレーにこんな映画館があるなんて知らなかった! 隠れた名所だ!」とリップサービスしていました。でもサンタのデルマー劇場だって負けてないですから。

全米公開は11月末から。

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