2010年2月16日火曜日

"A Single Man"「シングルマン」

コーエン兄弟の"A Serious Man"と似たタイトルで、よく間違えちゃうんですけど、中身は全然違う映画です(^_^;)。

最初に本作を観たのは、去年9月、ヴェネチア映画祭でした。私は同じコンペ部門で受賞を競う、塚本晋也監督の"TETSUO The Bullet Man"とのカップリング上映で観たのですが、同じ時間のメイン会場では、トム・フォード監督やコリン・ファースたちが同席して上映されていました。オンラインでチケットを買ったときは、そういう情報が出ないので、よりチケット代の安い『鉄男』と2本立ての方を買ってしまったのです。そのことに気がついたのは、コリンたちのレッドカーペットを見て、さて会場に入ろうか、と思ったら、警備の人に、「このチケットは別会場だよ」と言われた時。うう、一生の不覚。泣きながら(心の中で)その別会場へ、よたよた走っていきました(メイン会場とは少々離れたPala Biennaleというテント張りの特設場所でやるのです)。

この映画は、ファッション・デザイナーとして成功したトム・フォードが、映画監督に挑戦した作品として、注目を集めていましたが、門外漢の初監督作品への期待をはるかに上回る端正な作りで、驚きました。

物語の舞台は、1962年のロサンゼルス。52歳のイギリス人で、大学教授のジョージ(コリン・ファース)は、長年の恋人ジム(マシュー・グード)の不慮の事故死から7ヶ月経った今も、立ち直れずにいた。とうとう自ら命を絶つことにしたジョージの、長い一日が始まるーー。

見終わったとき、「これはきっとコリンが主演男優賞を取る」と思ったのですが、やはり、ベネチア映画祭の主演男優賞を受賞しました。おめでとお〜、コリン! 前に2回話したことあるけど、覚えてる? 今回は同じ場所にいたのに会えなくて、とっても残念だよう。2,30メートルぐらいの距離にいたんですけどねぇ。

映画祭開催中、"Queer Lion Award"というのもやってたのですが、そこでも本作は賞をもらっていました。

夢のような、しっとりとした余韻も冷めやらぬうちに、続いて"鉄男 The Bullet Man"の上映が始まりました。この時点ですでに多くの人が帰ってしまっていたのですが、映画が回りはじめると、どんどんどんどん、人が帰っていきます。さもありなん。"A Single Man"と、あまりにタイプが違い過ぎます。破壊力あり過ぎ……。(主役はどっちも似たような黒縁眼鏡にスーツなんですけどね)あと、音量がなぜか、耐え難いほど大きかったのも、観客を追い出す一因になったと思います。映画祭全体で、音量レベルにばらつきがみられました。いろんな国から作品がやってくるから、いろいろ調整が大変なのかしら?

去年の冬頃から、こちらの劇場で予告編がかかるようになりました。ここまでコリンを前面に押し出した予告編はなかったのではないでしょうか。地味な俳優を地道に応援してきたファンにとって、なんともrewardingな予告編です(^_^)。もちろん雑誌やTV番組など、メディアへの露出もあります。でも、予告編まで、カッチ、カッチという規則的なリズムの使い方が、"A Serious Man"と似てるんですよねぇ。どちらも大学教授が主人公で…。


"Script"誌その他のトム・フォード監督へのインタビューによると、ジョージが自殺する覚悟をするというのは、フォードが考えたプロットで、原作にはないそうです。原作は、恋人が自分の元を去るのではないかという作者自身の不安が基になっているのだとか(作者のクリストファー・イシャウッドは、映画「キャバレー」の元になった小説を書いたらしいです。先日、仕事で『シャネルとストラヴィンスキー』の年表部分を翻訳したのですが、イシャウッドは年表に出てきた詩人、W・H・オーデンとも親しかったそうです[年表は校正ミスで1行抜けたためにオーデンとディアギレフが同一人物みたいになっちゃってますが(^_^;)])。そして、映画には目のモチーフがたくさん出てくるのですが、それは、今日一日で命を絶つ決意をしたジョージが、あらためて、目に映るいろんなものを、本当に見つめる、という意味が込められているのだそうです。コリンが演じるジョージのために、スーツはイタリアで直々に仕立てたとのこと。映画がダグラス・サークを思わせる、という意見には、そういう意図はなかったが、音楽の使い方はヒッチコックの影響があると思う、と答えていました。BGM、確かに印象的ですが、additional musicが、「LOVERS」の梅林茂でした。フォードは、ジョージ役にはコリンしかいないと思っていたそうですが、「ドリアン・グレイ」を撮影中だったコリンは最初断ったらしいです。その後、別のジョージ役の俳優が何かの都合でダメになり、「マンマ・ミーア!」のプレミアか何かで顔を合わせ、話がついたのだとか(最初の頃は、e-mailでやりとりしていた模様)。

ジョージが恋人の訃報を電話で知る場面は、コリンの演技が絶賛される名場面になっていますが、その電話の声の主は、実は「マッドメン」のジョン・ハムだそうです。

TVの映画評論番組"At the Movies"のホストで、シカゴ・トリビューン紙のマイケル・フィリップスは、「俳優コリン・ファースを嫌いという人にはあったことがない」と言ってました(^_^)。もう1人のホスト、A. O. スコットも、「イギリス人の教授役としてベストのひとつ」って褒めてました。どういうほめ方なんだ。

"At the Movies"での評 (clip)

コリンもたくさん、トークショーに出ました。"Daily Show"、"Tonight Show"、"Regis and Kelly"、"Ellen"、”CBS News Sunday Morning"…。つい数ヶ月前は、「クリスマス・キャロル」のプロモで、やはりいくつかのトークショーに出たばかりです。

 
今号(#593)発売中の、"Vanity Fair"サイトで撮影裏のクリップが見られます。


"Tonight Show"では、マーチン・スコセッシ監督の次に出てきて、「ここに彼が座ってたんだなぁ」って、うれしそうでした。ゴールデン・グローブ賞の翌日の出演で、コリンは惜しくも受賞を逃してしまったのですが(「クレイジー・ハート」のジェフ・ブリッジスに敗れた)、授賞式でのトイレの模様をおもしろ可笑しく話してくれました。イーストウッドたちが用を足してるところを見られるなんて、すごいですよね、確かに(^_^;)。その後もなぜか、シモネタばかりでした(^_^;)。実は、この時、コナン・オブライエンはNBCともめていて、早ければこの週から番組はキャンセルになるのではないかと噂されていたため、ハラハラしていたのですが、無事にコリンが出る回は放映され、数日後に最終回を迎えた同番組は、ウィル・フェレルのゲストを最後に締めくくられました。なのに、間抜けなことに、間違って録画消しちゃって、またもや大失敗す(T_T)。"Ellen"も消しちゃった…。”CBS News Sunday Morning"は、ロンドンにある奥さんの、エコフレンドリーなお店でのインタビューでした。インタビュアーが、人気の理由の1つは、ホット過ぎず、コールド過ぎないニュートラルな顔にあるって指摘していました。

"Tonight Show"コリン登場の回。30分ごろに登場します。


映画の冒頭で、薄暗い水中を漂う男の裸身が映るのですが、それはコリン本人で、どこぞの駐車場に置いた巨大な水槽の中に入って撮影したんですって。周りには椅子が置いてあって、いっぱい人で埋まってるかと思ったら、ほとんど空席でさー、ってボヤいてました(^_^)。フォード監督は、撮影前にコリンを見て、「そのままで素晴らしいけど、でもトレーナーをつけるから(=痩せろ)」と言ったのだとか。後で、奥さんがトムにお礼を言ったんですって。

"Daily Show"コリン登場の回。2010年1月19日放映。

最新の出演は、2月15日深夜(16日)に放映された"Late Late Show"。ホストのクレイグ・ファーガソンは、コリンを迎えるとき、"Adorable"って言ってました。クレイグはスコットランド人みたいで、コリンが、イギリス人はデフォルトが恥モード、っていうと、スコットランド人は恥+怒りモードって返していました。

ジェフ・ブリッジズと同じ便に乗り合わせた話とか、イギリス人は座って出来るスポーツばかり得意とか、この映画のためにシェイプアップしようと思ってスポーツ店に行ったけど、買ったのは座ってできるマットで、腹筋を始めたら2時間後に目が覚めたとか(寝てるじゃん)、奥さんがイタリア人の話とか、学校の給食がどんなにまずかったかとか楽器はギターを習いたかったのにバリトン・ユーフォなんとかの担当にさせられた話とか、面白い話をたくさんしてくれましたが、一番面白かったのは、ずっと前の映画撮影の時、ティモシー・スポールが吐く場面があって、小道具係が「ゲロ」をこしらえたんだけど、それがケータリングの食べ物よりずっとうまいので、吐く場面の時、みんなでお椀を持って受け止めてた、っていう逸話。今は、イギリスのケータリングは向上して、「シングル・マン」の撮影の時は、味も健康面も申し分ないよ、っていうつなぎなんですが、題名は言わなかったけど、それ「ときめきアムステルダム」の時の話だよなぁ(^_^)。初めてです、コリンがそんな昔の映画のこと話すのを聞くのは。あの頃はとんでもない美形だったよなぁ。今だって素敵ですが、もちろん。それこそトム・フォードにもらったみたいな、カッコいいスーツを着こなしてましたが、はだけた胸元の、首から下んとこが、日に焼けたみたいに赤かったのが気になりました。あと、「アハハ」というより「んふふ」という感じで笑う、笑い方がかわいいです(^_^)。


今回、すごく長く話してくれました。CMブレイクの時、クレイグが「まだいてくれる?」って聞くと、「いるよ(I'll hang around)」って答えたんですが、言い方がとても感じよくて、コリンにそんな風に、そんなことを言ってもらえるんて、この幸せ者め>クレイグ。

実は、どうももう一人のゲストがキャンセルになったらしいのです。それで普通の2倍、しゃべってくれたのですが、イギリス人とスコットランド人の会話は難しくて、聞いてるうちに頭がガンガンしてきました(^_^;)。何回も巻き戻してしまった。

●"Late Late Show"のサイト。そのうちコリンのクリップもアップされるかしら?

YouTubeにはすでにアップされてます。


ジュリアン・ムーアが、ジョージの女友達チャーリーを演じています。「チャーリー」というのは、シャーロットの愛称みたいですね。チャーリーは、「キャバレー」でライザ・ミネリが演じていたサリーのモデルです。ムーアも素晴らしかったです。それから、ジョージの生徒の1人を演じていた若者が、「アバウト・ア・ボーイ」の男の子、ニコラス・ホルトだったと知って、ビックリしました。ホルトの次回作は、「タイタンの戦い」のリメイクなのだとか。(関係ないですが、今年の母校の新築劇場で「キャバレー」が上映され、少し舞台美術を手伝いました)

製作会社のFade to Black(暗転)社は、たぶんトム・フォードが作った会社なんじゃないかな。それで、アソシエイト・プロダクションが、Depth of Field(被写界深度)という名前。

さて、めでたくアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたコリンですが、イギリスの"Empire"誌のインタビューによると、若い頃に映画賞にノミネートされたことがあるが、その頃は賞をもらうというのは俳優にとって害にしかならないと思いこまされていたので、注意を払っていなかったのに、いざ他人に賞を奪われたと知ると、ショックを受け、ショックを受けた自分がショックだったそうです。今回も、きっとショックを受けちゃうんだろうなぁ。どうせジェフ・ブリッジズが獲るだろうから…。

「Empire」誌オンラインでコリンのインタビューなどが観られます。

 
左上から"Entertainment Weekly", "Script", "Vanity Fair", "Empire."
"Vanity Fair"のスーツはトム・フォードによる見立て。


★ベネチア映画祭でのレッドカーペットの様子。
撮影は「鉄男」スタッフの佐川君。大阪弁のコメントが面白いです。3分過ぎぐらいに、コリンがこっちに来ます。
コリンは奥さんがイタリア人のせいか、イタリアで人気があるみたいで、観客の女の子たちから、すごいコリンコールがかかっていました。授賞式のスピーチも、流ちょうにイタリア語をしゃべっていました。

▼羊はスチル写真を撮りました。あまりズームが効かないカメラ。
 

  

  

 

▼こちらもよろしく。

「ぼくのプレミアライフ」
(字幕担当)

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<2010年9月4日>
DVD、観ました。メイキングと、監督コメントがおまけで入っています。

DVDで観た方がハッキリと分かるのですが、監督は、非常にliteralなカラースキームを使っています。普段、ジョージにとって世間は灰色。時折、何か彼の琴線に触れるものや出来事に触れると、それがパァッと色づくのです。彼の目に映るものと、彼自身と。トム・フォードはとても色にこだわって、ポストプロダクションで、いろいろ工作したそうです。車の内装の色を変えたり、女優の口紅の色を変えたり…。監督のコメントを聞くまで気づかなかったのは、銀行の場面に出てくる少女が、ドロシーなんだということ。それで、彼女が靴をコツコツすると、テクニカラーになるのです。

フォードが細部にこだわる人間なのは、映画を観れば分かりますが、コメントでもこと細かに解説してくれていて、ありがたいです。特に、折に触れてコリンの演技を絶賛していて、コリンファンには福音です(^_^)。彼の演技が素晴らしいので、「カット」の声をうかつにかけられない、「カット」と言おうと思った瞬間、彼の表情に何かが起き、そのままカメラをいつまでも回し続けていたくなるのだそうです。スタッフも、彼の演技に釘付けだった、と言ってました。

ジョージの大学のスタッフルームで、ソファに腰かけている2人の紳士は、フォードの恋人と、イシャウッドの恋人なんですって。

電話の声の主、ジョン・ハム主演の「マッドメン」は、エミー賞をいくつも受けている非常に評価の高いTVシリーズ。最近見始めたのですが、これは確かに凄いです。奇しくも、こちらも舞台が1962年で、当時の風俗を注意深く、再現しているところが「シングル・マン」と共通しており、どちらかにはまった人は、他方にも夢中になること請け合いです。

ただ、監督のディティールオリエンテッドでコントロールフリークなところが、映画の欠点でもあって、うっかりすると、主人公にも映画にも入り込めずに、「So What?」としらけてしまいそうになります。 ジャンプカットとか、まだまだぎこちない演出、やりすぎ演出もあるし、その辺に寛容な人、それから、ロマンチストの人の方が、本作を楽しめると思います。

そういえば、ベネチアで本作を観たのは、去年の今頃だったんだよなぁ…。楽しいこともあったけれど、人の狭量さにうそ寒い思いもした映画祭。

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オテモヤン さんのコメント...
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