2010年8月11日水曜日

"Dinner for Schmucks"『奇人たちの晩餐会 USA』

 "Schmuck"とは、辞書によると、ばか, まぬけ;変人 なのだそうです。言われたくない/思われたくない言葉ですねー。

予告編を1度観ただけではコンセプトがさっぱりわからなかったんですが、要するに、お金持ちのsnobたちが、Schmuckをディナーに連れてきて彼らの奇人・変人ぶりをあざわらい、どのSchmuckが一番アホかを競わせるという悪趣味な集まりを描くものでした。後で知ったのですが、フランス映画の「奇人たちの晩餐会」のリメイクだそうです。



こういうのは、変人に扮する役者の手腕に大きく左右されますが、「オフィス」のスティーブ・カレルが、主人公(ポール・ラッド)に目をつけられるschmuckという、力量を問われる大役(?)に果敢に挑戦します。さらに、彼とschmuck度を競うライバル役で、「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」のザック・ガリフィナーキが期待に応える怪演をみせます。ガリフィナーキはロバート・ダウニー・Jrとの共演作がすぐに控えていて、フレンチブルドックが相棒の、そっちの映画の方が彼の本領を観られそうではあります。

ポール・ラッドの主人公は、出世のために上司が主催のこのディナーに初参加しようとするのですが、ギャラリーのキュレイターをしている美人で聡明な彼女から、非人道的な行為だと、目の色を変えて大反対されます。でも、タイミング良く、自分の車にぶつかってきたカレルのアホぶりに目をとめたポールは、知り合ったばかりの彼をディナーに誘ってしまうのでした。

ラッドは、好感度ぶりを生かして、「40男のバージンロード」(←おもしろかったです)に続いて、常識外れの相手に翻弄されるナイスガイを演じています。カレルの出世作「40歳の童貞男」と邦題かぶってますが、ラッドはこちらにも顔を出しており、カレルと共演するのは3作目ぐらいです。

で、主題が主題なだけに、ラッドの彼女みたいに「不愉快だ、けしからん!」と眉をしかめる評論家もおり、「おもしろい、カレルたち最高〜!」という反応と、まっぷたつに割れています(エグゼクティブ・プロデューサーの中にはサッシャ・バロン・コーエンの名前も…)。私にとっては、これほど振幅の激しい、複雑な気持ちにさせる映画はめったにないです。こんな映画に、こんなにグッときてしまう自分ってどうなのよ、やっぱりアンタってばshmuckなんじゃないの、前からそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりそうなのね、と自己不信に陥ることしきりです。トホ。

映画は、ネズミの剥製を使った、メルヘンチックな一大ジオラマをじっくりとカメラで捉えたタイトルバックで幕を開けます。ちょうど、パペットアニメーション用の人形を作っていて、一息つきに、くだらないコメディ映画を見に来た私のハートをわしづかみです。「映画2時間が全編これでも私は全然オーケーだよ!」と、心の中で銀幕に語りかけました、はい。ネズミに着せる衣装も舞台もすごく細かくできてます。で、ジオラマの作者がスティーブ・カレル扮する男で、ネズミの剥製のジオラマ作りが趣味の彼は、道ばたで見つけたネズミの轢死体(road kill)を拾おうとしていたところを、ポール・ラッド扮するやり手営業マンの車にぶつけられてしまいます。あわててかけよるラッドに、「大丈夫。わー、これポルシェじゃん、ポルシェにはねられたの初めてだなあ」と喜ぶカレル。Talk about cute meet! もう、ここからは彼の、ハンパないshmuckぶりが全開です。

……ダメなんです、私、こういうの。ハタ迷惑な相手のせいで、善良な主人公がどんどんヤバい状況に追い込まれるっていう展開。本作も、どんどんどんどん観ているのが辛くなってきて、笑うどころの騒ぎじゃなくて、本気で席を立ちたくなりました。ただ、予告編に出ていたディナー場面は観たかったので、なんとかそこまで堪え忍びました。「何でこんなのを観ようと思ったんだろう」と後悔しつつ…。

そして、辛抱は報われました。晩餐会での、カレルのけなげな友情と、ネズミの剥製を使ったスピーチに、やられました。「バカと天才は紙一重」ってuniversal truthよね、カレル。

どんなに愚鈍で変人でKYでアホでも、あんなに緻密なジオラマをつくれる者を、尊敬こそすれバカになんかできません。立派なアーティストですよ。映画の後の方で分かるのですが、オープニングに出てきたメルヘンな光景のジオラマは、カレルが「こうありたかった幸せな自分」を表現していたのです。クゥ、切ないぜ。アートといえば、ラッドの彼女のギャラリーで個展を開いたフランス人の、動物をモチーフにした俺様アーティストのサブキャラが、非常にいい味を出しています。フェロモンむんむんのこの役は、評判のコメディ番組"Flight of the Conchords"のジェマイン・クレメントが演じています。ここでも再び、私の「現代アート=おいしい映画ネタ」論を裏付けています。映画は、最後にはカレルをアーティストとして、正統な扱いをして終わります。ん、それで正解!

あと、カレルの「やばくなったら死んだふり」作戦がすごく好きです。(^_^)

ところで、実際に「マウスターピース」ジオラマを作っているのは、有名ストップモーションアニメーターの、キオドブラザースだったんですね。納得の完成度です。最初観た時は、ネズミじゃなくてハムスターだと思いこんでいたんですが、彼らのインタビューによると、実物大よりやや大きく作ったんだそうです。実物大だと小さすぎるのと、リアルな剥製のようにすると不気味になってしまうので、もう少しかわいらしくデザインしたそうです。

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