2010年12月28日火曜日

"King's Speech"「英国王のスピーチ」

 現エリザベス女王の父、ジョージ6世が、吃音症を克服し、英国の、そして世界の命運を左右することとなる一世一代のスピーチをうつまでの知られざる史実を、ユーモアをまじえて綴る話題作。

監督は、「くたばれ!ユナイテッド -サッカー万歳!-」のトム・フーパー。 たいへん評価の高かったこの映画、私も監督の着眼点や、映画作りの巧みさにすっかりやられてしまった一人ですが、フーパーは「第一容疑者 姿なき犯人 」や「エリザベス一世 〜愛と陰謀の王宮〜 」などの傑作TV映画(どっちもヘレン・ミレン主演(^_^))で、腕を磨いてきたんですね。

共演はジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーターなど、など。


今年度アカデミー賞の有力候補と評判の、本作のタイトルを耳にしたのは、9月半ばに開催されたトロント映画祭で観客賞を射止めた頃。そして、まるでタイミングを図ったように、ウィリアム王子婚約のニュースが発表さればかりの11月末、待ち焦がれたアメリカ公開がはじまりました。

11月27日から、NYなど一握りの主要都市で限定公開され、徐々に全国へ拡大、サンタクルーズでは、やっと12月25日の土曜日、お目見えしました。でも、そんなに待てるかいっての。この近辺では唯一14日に公開された、パロアルト(スタンフォード大学やフェイスブック社などがある、インテリ臭ただよう町)の劇場へ、車でGOだ!

 そしたら、行ってビックリ、なんだか草月ホールのような雰囲気の劇場前は、もう長蛇の列! しかも、銀髪のおとしよりばかりっ!! なぜ??? みんなWW2体験組なのか!? ちょっとおどおどしながら列に加わる旧・敵国ジャパニーズの私たち。席はすでに、前列の方しか空いておらず、上映開始前には満席でした。入れなかった人もいたと思います。

さて、映画は、まだ父王ジョージ5世が存命中、代役としてスピーチをするヨーク公アルバート(コリン・ファース)の受難から始まります。幼少時から、激しいどもりに悩まされてきたアルバートは内気な性格で、そんな大役は重荷以外の何物でもありません。アルバートの望みは、愛する妻(ヘレナ・ボナム=カーター)や、二人の幼い娘たち(ひとりは後のエリザベス2世)と平和に暮らすことだけ。夫の良きサポーターである妻エリザベスは、アルバートの吃音症を心配して民間のスピーチ・セラピスト(言語聴覚士)、ライオネル・ローグ(ジョフリー・ラッシュ)のオフィスを訪ねます。王室付きの医師とはまったく異なる型破りな療法と、王族のアルバートをバーティと呼び、市井の患者として気楽に接するローグの破天荒ぶりに一度はかんしゃくを起こしてお払い箱にしたアルバートですが、ローグいわく「お墨付きのバカ」である権威ある医師らと違い、的を射た治療を行うローグの腕を認めて、妻の協力に支えられながら根気強く治療を続けていきます。どもりの原因を探るローグの問いに、少しづつ、乳母に虐待された辛い幼少時の過去を語っていくアルバート。時代は、ヒトラーが台頭し、戦雲うごめく不穏な情勢に向かいつつあります。そんな折、権威主義の権化のような父王が崩御し、兄エドワード(ガイ・ピアーズ。意外にも適役でした。ラッシュはじめ、オーストラリア俳優は芸達者ね。監督自身、半分オーストラリア人だそうです)が王位を継ぎます。しかし、国政に頓着せず、離婚歴のあるアメリカ人女性との結婚を選んだ兄が即位後すぐに退位したため、バーティにお鉢が回ってきます。それは、彼が一番怖れていた事態だったのに…。

観てから半月ほど経ちながら、記憶力に(すごく)乏しい羊が割りとサクサクあらすじを書けるのは、やはりTVドラマ作りで、整然としたストーリーテリング術を磨いたフーパー監督の手腕のおかげでしょうか。「ユナイテッド」でもそうでしたが、彼の映画は、冒頭から主人公にすんなりと感情移入出来、彼または彼女の体験や気持ちを、生々しく感じさせるので、つい細々とストーリーを書いてしまいたくなります。

この映画で真っ先に気づくのは、独特な構図のとりかたです。わざと、主人公など中心となるべき被写体を、画面の中心からはずしてポツンと隅に置く絵作り。こういう構図が好きな監督だったっけ? そうじゃないとしたら、それには意味がありますよね。

シングルマン」に続き、アカデミー賞へのノミネートはほぼ固い、コリン・ファースの演技は、もちろん素晴らしく、地元紙の評では「一世一代のはまり役」と形容していました。実は、どもりの役は、「ひと月の夏」で経験しているコリン。でも、それとは全然、勝手が違ったそうです。彼の妹さん(姉かな?)は、偶然にもスピーチ・セラピストで、彼女にいろいろ相談したのだとか。王室に1ヶ月張りついて役作り、なんて出来るわけありませんが、ジョージ6世の演説は残っているので、それを聞いたりして、リサーチにいそしんだようです。

本物のジョージ王のスピーチ:http://www.youtube.com/watch?v=DAhFW_auT20

映画を観たら、聞き比べてみてください。

『タッカー』などの脚本家デヴィッド・サイドラーは、1930年代生まれで、子どもの頃にひどいどもりに悩まされていたため、ジョージ6世のスピーチをラジオで聞きながら、「この人が克服できるなら、僕にもできる」と思ったのだそうです。長じて、リサーチをしていた時に、ライオネル・ローグの孫が、ローグの日記と、ジョージ6世のカルテを保管しているのを知り、連絡を取ったとか。そしてエリザベス王太后に手紙を書き、映画化の許可を求めたのですが、「私が死ぬまではダメ」という返事だったそうです。260才ぐらいまで生きそうだった王太后も、2002年に逝去。それで、試しに場末の舞台劇として台本を書いてみたところ、偶然フーパー監督の目に止まったというわけです。

ローグの妻役の人、メリル・ストリープに似た女優さんだな、と思っていたら、「高慢と偏見」のエリザベス役で主演し、コリンの相手役をつとめたジェニファー・エイルでしたぁ。最後まで気がつかなかった…。もうひとり、エリザベスに求婚するコリンズ牧師役の人が、ローグが受けに行ったオーディションの舞台監督役で出てました(そっちには気がついた)。チャーチル役のティモシー・スポールとも、コリンは「ときめきアムステルダム」でうんと若い時に共演しています。とんでもなく不潔でだらしないチームメイト役でした(いや、スポールがね)。ラッシュの役が、すごくひょうひょうとしていて、もう仙人に近いものがありましたが、そのおかげで、クライマックスの、バーティとローグの共同作業が、くさくなったり妖しくなったりせず、「アマデウス」のモーツァルトとサリエリのような、純粋なものに昇華されています。ヘレナ・ボナムの奥さん像も、絶妙でした。

去年は「クレイジー・ハート」のジェフ・ブリッジズにオスカーを持ってかれたコリンですが、今回の強敵は「ソーシャル・ネットワーク」のジェシー・アイゼンバーグ。ゲイ役だった前回と違い、役柄的にもアメリカ保守層受けのする今回、果たして去年の雪辱なるか?

0 件のコメント: