2012年4月9日月曜日

"Jiro Dreams of Sushi"「二郎は鮨の夢を見る」

Jiroという高齢の、東京で小さな寿司店を営む寿司職人の日々を追ったドキュメンタリーです。

映画館で予告編を観た時は、「超一流の寿司職人なんだろうけど、ただ寿司を握ってる姿を淡々と捉えたって、長編映画の題材として保たないんじゃないのか、どうやって1編の作品に仕上げてあるんだろう、エキゾチック趣味の欧米人を満足させる以上のまともな作品に仕上がっているだろうか」、と映画作りノウハウの面でも興味をそそられて、公開を心待ちにしていました。



職人の名前は、小野二郎。店の名前は、「すきやばし次郎」。銀座の駅ビルの地下にあり、10席のカウンター席があるだけの、小さくて地味な店舗です。そんな店のたたずまいからは想像つきませんが、ミシュランの三つ星を受けた高級店で、一人最低3万円から、だそうです。ワォ、どんだけ美味しいんだ?

映画は、85才になっても「完璧な寿司」を求めて夢にまで見るという小野二郎という人、やはり寿司職人の道を選んだ二人の息子、そして何より、「最高レベルの寿司とはどんなものなのか? その秘密は?」みたいな点を柱にしていました。監督と撮影を手がけているのはデヴィッド・ゲルブというアメリカ人で、もちろん寿司に関しては門外漢なわけで、この題材には不可欠な専門的なうんちくや視点は、日本の料理評論家のナントカさん(名前忘れちゃった)にお任せしちゃっています。「美味しんぼ」の海原雄山と違って、感じのいい人で、偉ぶったところのない平易な語り口で「次郎」の寿司について解説してくれています。

予告編から受ける印象通り、基本、とてもシンプルに一人の寿司職人を追っているだけの映画なのですが、それはひたすら寿司をにぎることしか頭になく、「シンプルを極めれば最高になる」という寿司に対する主人公のポリシーにも通じ、対象を追う製作者の真摯な姿勢が気持ちよく、ちっとも飽きませんでした。音楽がまた、ミニマリズムな「コヤニスカッティ」のフィリップ・グラスみたいな曲で、なにげない仕込みや握りのシーンがいかにもいわくありげな、厳粛な雰囲気に包まれていましが、ホントにフィリップ・グラスの曲を使っていました(^_^;) また、映画のクライマックスで、料理評論家が、「次郎の寿司は交響楽のようで、3楽章に分かれている」と解説し、彼を交えた10人の客に寿司を供するシークエンスは、もちろん交響曲のBGMでした。ところどころ、カメラのピントがずれるのだけど、オートにしているのだろうな。エンドクレジットを見ると、REDカメラで撮影しています。町並みや、歩いたり自転車を漕ぐ姿などのなにげない風景から寿司の仕込みまで、スローモーションを多用しているところも、「コヤニスカッティ」ぽいです。

普段、韓国人が経営し、メキシコ人がおざなりに握る、寿司とは名ばかりの、下手すれば酢飯ですらないようなものを、「美味しい美味しい」と言って喜んで食べているアメリカの人たちを歯がゆく思っている身には、じっくりじっくり、ていねいに仕込みに手間暇をかけ、ネタを厳選し、食べ頃を見極め、シャリの銘柄や炊き方、温度にもこだわる「次郎」の仕事ぶりに、「これでしょ、これ。寿司ってこうあるべきでしょ」と心の中で叫んでいました。ベイエリアで寿司を握っているすべての人と、食べに行くすべてのアメリカ人は、これを見て「寿司」とは何か、勉強するように。いや、別に自分が寿司のエキスパートというわけではないけれど、あんまり違うからさ、アメリカの寿司が日本のと。

気になるのは、こちらの人がどういう受け止め方をしたかというところ。映評を読むと、日本人の典型的な職人気質が、やや度が過ぎた、狂気に近いものに映るようで、ちょっと引いた感想になっています。寝ても覚めても寿司のことだけ、寿司を握る以外のことをしているときは落ち着かなくて、時間を無駄にしたような気になる、という一途さを、日本人はプロの鑑ととらえるけど、こちらの人はadmireしつつも、「それだけで人生いいのか!? ほかに大事なことがないのか?」と思わずにはいられないようです。昔、アメリカ人の評論家が、スポ根マンガの主人公の一徹ぶりを、「学生なんだから部活がすべてじゃないはずだ。もっと学生生活をenjoyする描写があるべきだ」と批判して、その点にページを割くあだち充のマンガを高く評価していましたが、それを思い出してしまいます。確かに、タコをゆでる前に45分もマッサージしたり、高温のおしぼりを素手で扱えるようになるまで包丁を握らせない、みたいな方針は、アメリカ人には理解しがたいものがあるかもしれません。無意味に弟子いびりをしているように映るのかな、だからハリウッド映画の『ラーメンガール』でブリトニー・マーフィーにトイレ掃除させる西田敏行、みたいな誤解したとらえ方になっちゃうのかな。あと、変に深読みをしたくなっちゃうみたいで、「レーサー志望だった息子の悲哀が目に現れている」とか、「コメ問屋のおやじとの会話で、言外に申し合わせが行われている」とか、lost in translationな部分を見逃すまいとしているのが、面白いです。注目するところ、違うから。

映評の多くに"food porn"という言葉が出てきます。いかにもおいしそうに撮影した料理写真や映像を指すそうですが、この映画にもたくさんのfood pornショットが出てきます。大トロ、中トロ、赤身、うなぎ、イクラ……ああ、興奮しちゃう。

初日の2回目、金曜日の午後に見たのですが、観客は「すきやばし次郎」のキャパシティ以下。後ろに座ったおっさんが、「美味いものを作るには、美味いものを見分ける味覚を養わなければだめだ」という次郎のセリフに、「その通り!」って返事してました(^_^)。映画の後、まったりしていたら、観客の一人の高齢の女性が声をかけてきて、「この辺で美味しいお寿司屋はどこ?」と聞かれました。サンタクルーズの小さなダウンタウンにも、寿司レストランが4件あるのですが、一番マシだった韓国人経営のお店を勧めておきました。

ところで、どうして「小野二郎」なのに、店の名前は「次郎」なのか、という重要な謎については、映画は何も語っていませんでした。ローマ字だと同じだからなぁ。

=====< 追 記 >================

"No Reservation Required"というTV番組を持っている、Anthony Bourdainという人がいます。世界のいろんな食の場を尋ねる食べ歩き(飛び?)番組なんですが、数年前、「すきやばし次郎」を尋ねた時のクリップが、YouTubeにあがっています。


クリップの中で、感極まったボーディンが「もー今すぐ死んでもいい!」と言っています。ここ数年まともな寿司を食べていない電気羊は、クリップを見ていて、涙がにじんできてしまいました… (T_T)  ちなみに番組は、近々トラベルチャンネルからCNNに鞍替えするそうです。

で、このボーディンさん、このたび"Get Jiro"なるコミックを出版されました。


内容は、マナーのなっていない客の首をちょんぎっちゃう寿司職人の話なんだそうです (^_^;) か、かわなきゃ…。


=====< 追 記 その2 >================

7月末に発売されたDVDを見ながらの、実況中継です。

DVDには削除シーン、監督と編集者のコメンタリーなどがついています。

まず、映画の感想で、「飛びこみ客への対応がちょっとわさとらしい」と書いた部分があるのですが、DVDで見直してみると、そんな印象はまったく受けませんでした。映画の冒頭で、まだ彼らの人となりに慣れていなくて間違った印象を受けてしまったのだと思います。でも、そう思ってもせんないところがあって、コメンタリーで監督が「みんなこの部分は筋書きがあったのだろう」と思うけど、でも偶然、あのお客さんが完璧な質問をしてくれただけなんだ。どれも一発勝負だよ」と言っていました。(該当部分は削除しました)

監督は当初、日本中の寿司屋を回って、いろんな寿司職人について撮ろう、と計画していたのだそうです。でも、JIRO氏に出会って、「この人が寿司の思想をすべて体現している」と思ったのだろう。"He is a true genius."と言っています。

料理評論家の人は「山村さん」でした。彼がいろんな店に監督を連れていってくれ、次郎さんとの仲立ちをしてくれたり、映画にずいぶん貢献しているそうです。

REDカメラは小さいから、あの狭い店内を撮るにはピッタリだったようです。ピントは、オートではなくマニュアルにして、忙しく焦点を変えながら撮影しているので、ピンぼけがたくさんあるのかも。ちょっと焦点変えすぎだよ、でも。

次郎氏の長男Yoshikazu氏のことは、"Reluctant Hero"と言っています。監督、Favorite sceneやthingがたくさんあるみたいで、なんども「僕が気に入ってるのは…」って解説で言っていました。Yoshikazu氏が自転車で築地に仕入れに行くときに使う貨物用エレベーターのドア、それを見たときに「この作品を撮りたい」と思ったらしいですよ。変わってるなあ。

いや、卵焼きとカステラは違うと思うけど…。

寿司が「軟着陸」するんですって。(^_^) シャリをふわっと握るから。

自分たちで「全部お気に入りシーン!」って最後に言ってます。

見直して改めて感心したのは、お店の清潔さと、静かさ。大きな声で店員をしかりとばす店主ってときどきいるけど、次郎さんは静かに指示を出し、弟子たちはあうんの呼吸で動く。お客さんに寿司を握るという行為は、ライブステージなのだなぁ。






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