2014年3月4日火曜日

"Philomena" 『あなたを抱きしめる日まで』

アカデミー賞の作品賞、主演女優賞、作曲賞にノミネートされたイギリス映画です。

50年前、やむを得ぬ事情でわが子を手放した女性が、ジャーナリストの助けを借りて探し出そうとする、実話がもとになっています。その女性、フィロミナ役にジュディ・デンチ、ジャーナリスト役にコメディアン出身のスティーブ・クーガン。ジャーナリストの著した本を脚色したクーガンはプロデューサーも務めており、皮肉なコメディアン色を消した彼の演技は、デンチとともに高く評価されています。

作品の評判は聞こえていましたが、監督がスティーブン・フリアーズと聞いて、遅まきながら観てきました。パツと見、派手さがない代わり、尻上がりにじわじわじわん、と来るタイプの映画が好きな人に、オススメです。



見どころは、人情話系が大嫌いなインテリで、無神論者のジャーナリストと、学はないけど信心深くてポジティブ思考派のフィロミナのデコボココンビぶりと、フィロミナのわが子の行方を追うふたりの旅の、意外な展開とてんまつです。

1950年代のアイルランド。未婚のまま出産したわが子を、修道院の手によって無理矢理養子に出されてしまった過去を持つフィロミナ。50年間、その事実を実の娘にも隠してきたが、とうとう生き別れの息子を探す決意をした彼女は、娘がとりもつ縁で、政界から追放されてくすぶっていた元ジャーナリスト、マーティンに協力を頼む。手がかりを求め、ふたりで修道院を訪ねるが、資料が残っていないために分からないと告げられる。マーティンは自力で養子縁組み先がアメリカであることを突き止め、フィロミナを連れてアメリカに渡る。ここから先が、ビックリ、またビックリ、みたいな展開となり、小説よりも奇なる運命の不思議に、ただただ口をあんぐりするしかありません。

映画館で泣くのは恥ずかしいんで、いつもは我慢するんですが、この作品に限っては、「もう泣いても全然恥ずかしくない!」みたいに思えて、涙が出てもちっとも気になりませんでした。悲しさとカタルシスがない交ぜになったような、不思議な涙です。

泣きどころは映画の最後ではなく、ひとつ手前のところ。泣いた後に、いちばんの見せ場が用意されています。

すべてが判明した後、ふたりは今一度、ことの発端となった修道院に戻ります。故意に情報を隠していた尼僧たちの態度に、ジャーナリストとして、フィロミナの旅の随伴者として許せなかったマーティンは、年老い、隠居生活を送る当時の尼僧長を鋭く糾弾します。それはまっとうな怒りで、観客も「そうだそうだ、もっと言ったれ、言ったれ」と思うのですが、フィロミナがそんなマーティンを制止し、尼僧長に「I forgive you」といいます。「なんなの、そんなに簡単に許しちゃうような軽いことなの?」と責めるマーティンに、フィロミナは「簡単なことじゃない。私は、あなたのようになりたくないだけ」と静かにいいます。つまり、怒りや恨みに囚われて生きたくない、というのです。

「I forgive you」という言葉の意味、「人を許す」という行為について、長年生きてきて、はじめて少し、理解ができたような気がします。

マーティンの雇用主である新聞社(出版社かな?)の女上司役、どこかで見たと思ったら、「ゲーム・オブ・スローンズ」のキャットでした! 「ハリ・ポタ」ではハーマイオニーのお母さんの役だったとか。

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原作本"The Lost Child of Philomena Lee(「あなたをだきしめる日まで」)"を読みました。

読んで驚いたことに、映画と違い、これは題名が示す通り、フィロミナの話ではなく、フォロミナが探す子どもの方に焦点を当てた話でした。作者マーティン・シックススミスがフィロミナに息子捜しを頼まれたのは事実ですが、一緒にアメリカに飛んで探し当てたわけではなく、探索の過程は最後にざっと説明されているのみ、分厚い本書の大部分は息子アンソニー(マイク)の、養子に引き取られた後の人生に割かれています。元BBC特派員&イギリス政府の報道官である作者にしてみれば、政界の道を歩んだマイクの足跡をたどるのは、自分の得意分野であり、その事実を知ったとき、きっと舌なめずりしたことでしょう。でも小難しくて退屈するようなことは全くなく、彼は文才にも大変恵まれているようで、とても面白く読めました。改めて、アイルランドで非嫡子として生を受けたアンソーニー少年が、カソリック教会の手によって祖国と母の元から無理矢理引き離され、アメリカに渡り、後にアメリカの政界で果たした役割の大きさに、慄然とします。その影響は、未だに残っています(上院/下院を牛耳る共和党)。
私は本書でゲリマンダーという選挙区割り制度を始めて知りました。アメリカの大学で政治の講座を受けたのにな……。それから、1970年代にも、ジェリー・ブラウンがカリフォルニア州の知事で、レーガンかなんかと大統領争いのライバルだったとは。彼はシュワちゃんの後、元気にカリフォルニアの経済を立て直しています。なんというか、現在は過去の結果なんだよなあ、と思った次第。

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