2016年5月7日土曜日

”Life, Animated”『ぼくと魔法の言葉たち』

 
2016年4月30日、サンフランシスコ映画祭で上映された”Life, Animated”を観てき
ました。
 この映画は、ピュリツァー賞受賞ジャーナリストのロン・サスキンドが著した同名ノンフィクションに基づいたドキュメンタリー映画で、サスキンドの自閉症の息子、オーウェンの日常をカメラにおさめた作品です。
 初お披露目だった今年のサンダンス映画祭では5分間以上のスタンディングオベーションを受け、ドキュメンタリー部門の監督賞(ロジャー・ロス・ウィリアムス監督)を受賞しました。


上映館。サンフランシスコのビクトリア劇場
 オーウェンは2歳半で自閉症を発症し、突然言語能力を失い、周囲とコミュニケーションできなくなってしまいます。でも、ひそかに、オーウェン少年はディズニー映画を観て、ことばを独自学習していたのです。ある日、誕生日にふさいでいる兄のウォルトを見て、オーウェンは両親に完璧な文法で言います。「お兄ちゃんはピーターパンやモーグリみたいに……(このあたりは原作を読んでね!)なんだよ」
 それまで、せいぜい「あれが欲しい」「これとって」ぐらいしか言えなかったのに、抽象的な類推を、完璧なセンテンスで話すオーウェンに、両親は雷に打たれたような衝撃を受けます。その夜、父親のロンは、オーウェンのお気に入りのキャラクター、オウムのイアーゴのパペットを使って、イアーゴの声音で話しかけます。「やあ、調子はどうだい?」すると、オーウェンはスラスラと、「ぼくはひとりぼっちでさびしい」と言うではありませんか……。
 それから、ディズニー映画のキャラクターになりきり、映画のセリフを応酬しあうことで、「オーウェン教育」をほどこして行くサスキンド一家。でも、いつしかわからなくなって行くのです、果たして「教育」されているのはどっちなのか……。

 映画の冒頭は、原作と同じ、オーウェンがまだ発症する前、落ち葉が敷きつめられた自宅の庭で、ロンとピーターパンごっこをするファミリー・フィルムからはじまります。元気よく庭を走り回り、お父さんとチャンバラごっこをするオーウェンは愛くるしい、ごく普通の男の子です。

自閉症を発症する幼少期は、イラスト風のアニメーションにロンのナレーションをかぶせてさらりと表現し、大学に入学するまでの原作から先のパートを、リアルタイムにカメラが追いかけます。オーウェンは発達障害の学生が通う大学で「ディズニー・クラブ」というサークルを作り、ディズニー映画好きな同好の士を集めて一緒に鑑賞し、語りあいます。あるとき、オーウェンは以前から親交のあった『アラジン』のジャファー役、ジョナサン・フリーマンをゲストに招きます。大喜びのメンバーたち。ところがさらに、びっくりゲストが。オーウェンにも秘密で、イアーゴ役のギルバート・ゴッドフリードも登場! もうオーウェン大興奮です。

ゴッドフリードは、この上映会の数日後、テレビの深夜のトークショー”Late Night with Seth Myers”にゲスト出演して、映画”Life, Animated”のことにも触れました。ホストのセス・マイヤーズ(『サタデー・ナイト・ライブ』出身の知性派コメディアン)も、ゴッドフリードが登場するくだりを観て、「とてもよさそうな映画だね」と言っていました。



その後、オーウェンは無事に大学を卒業し、両親の懸案だったひとり住まいを果たし、映画館での職も見つけます。「ディズニー・クラブ」で出会ったエミリーというGFもいて、なれそめは本にも出てくるのですが、卒業後、振られてしまいます。ディズニー映画で育ったオーウェンは、愛は永遠だと思っていたので、かなり参ってしまいます。映画では触れられていなかったけれど、傷心を癒すのに、『インサイド・アウト』の“喜び”がずいぶん助けになったと、サンダンス映画祭のときのインタビューで言っていました。恋人同士はキスしたらあとはずっと仲良く一緒に生きていくものと考えていたオーウェンに、兄のウォルトが、フレンチ・キスも分からないのに、どうやって「その先」を教えればいいんだろう、ディズニー・ポルノでも見せるか!? と悩む場面は笑いどころのひとつ。

オーウェンは数年前から、ディズニー映画のお気に入りの脇役たちと、自分を主人公にしたある物語の構想を練っていて、本の巻末に自分のイラストつきで載せているのですが、それをアニメーションにするのが夢でした。この映画の中で、だいぶはしょってある(セリフがなかったり、悪役がひとりに集約されたり、GFが出てこなかったり)けれど、ちゃんとアニメーションになって、出て来ます。本当は、ちゃんとディズニー映画にしたかったんでしょうけど、もうそれほどはこだわってないみたいです。ただ、「ディズニー映画のキャラクター・アーティストになる!」という夢は今でもしっかり持ち続けていて、上映後のQAでも言っていました。

全体のトーンは、サスキンド家の家風そのままに、ユーモラスで前向きで、意外なぐらい、いろんな場面で観客の爆笑を誘っていました(日本ではあれほど屈託ない笑いは起きないと思う。そこがはがゆいところだけど)。オーウェンの率直さが、大人の事情や空気を読んでしまう我々の急所を突いて、思わず笑っちゃうんですよね。監督の説明によると、テレビスクリーンの裏側にカメラをしかけたそうで、ディズニー映画に見入るオーウェンの表情を真正面から映した場面があるのですが、何百回も観ているでしょうに、まるで初めて観る子どものようなリアクションをするのです。本ではあえてディズニー映画のスチール写真等は一切使用していませんが、映画ではディズニー映画のシーンが試用されています。『リトル・マーメイド』や『ライオン・キング』、もちろん『アラジン』も。

 これは、確かに自閉症児の特殊なケースであると同時に、子どもの時からアニメーションや漫画や映画とともに育って来た自分たちの歩んだ姿を映した作品でもあることに、観ているうちに気がつくはずです。

映画はアメリカでは7月8日公開、日本では来年の公開が決まっています。

映画の前に、原作を読もう!

上映後、映画館の外でオーウェンたちは大人気で、たくさんの人が話したがりました。
いろいろ聞きたかったけど、大人気過ぎて、サインしてもらって、わたしが翻訳させていただきましたと伝えるのが精一杯。
著者 ロン・サスキンド
オーウェン&コーネリア(母)
特に、素晴らしい妻&母のコーネリアと話せてうれしかったです。
オーウェンは三色ボールペンの芯が出せずにてこずってました。ごめんね!

日本語版にサインしていただきました!
「想像力と愛の世界共通のことば」ロン・サスキンド
オーウェン・サスキンド
「ご多幸を祈って」コーネリア・サスキンド
ほんとは「サスカインド」なんだけど、日本表記ではサスキンドが先にあったので……

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舞台挨拶1
サスキンド一家、監督、プロデューサー

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舞台挨拶2
シンバとムファサのやりとりをする
オーウェンとロン

※おまけ※

CBSのレポート"Breaking Through Autism"
オーウェンを特集した2014年の番組

ロン・サスキンドのTEDスピーチ。
10代の若者に向けたスピーチで、父親の遺言にあった「価値ある生を送れ」という言葉にはじまり、ジャーナリストの道を歩んだいきさつ、妻とのなれそめ、そして息子オーウェンのこと、彼が記事にして、ピュリツアー賞をもらった貧しい黒人少年の話などが、連綿と語られて行きます(これらは原作本にぜんぶ出て来ますヨ!)。かなりの話し上手なのは彼の著作を読めば予想つきますが、こんなにパワフルだとは! やっぱり、Like father like sonだわ 😲
 

2 件のコメント:

ロク さんのコメント...

とても素晴らしいレポートで、嬉しいです。
(嬉しいというのは、そぐわない表現と思わないでもないですが、そうとしか言いようがないので)
とにかく、ありがとうございます。

電気羊/e-sheep さんのコメント...

ロクさん、素敵なご感想をどうもありがとうございます!
日本在住の方でしょうか。日本で映画が公開されたら、ぜひご覧になってくださいね。(原作本もよろしく!)