2016年6月28日火曜日

“Genius”『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』

 コリン・ファースの新作映画です。初日の初回に行きました。内容からして案の定、観客は自分以外、見事に白髪またはつるぴかさんのみ。Nickelodeonという昔からある小さな映画館で、小さいのはそのままですが、椅子がグレードアップしてカップホルダーのある、座り心地のいい椅子になりました。Landmarkというチェーンに買われちゃったんですよね。床に、前の椅子を引っこ抜いた痕が残っていました。

ヘミングウェイやフィッツジェラルドを担当した伝説的名編集者マックスウェル・パーキンズと、トマス・ウルフの関係を描いた映画で、トマス・ウルフの伝記名編集者パーキンズ(バーグ著)が基になっています。監督はイギリスの舞台監督出身で、これが映画デビュー作のマイケル・グランデージ。


トマス・ウルフ、名前は知っていてもどんな作家か知らなくて、ネットで検索してみると、日本では翻訳作が少なくて、処女作の『天使よ故郷を見よ』ともう1、2作ぐらいしか出てないみたいです。映画では、『天使よ〜』と、2作目の”Of Time and the River”の出版エピソードが中心になっています。

ある日、ニューヨークの出版社スクリブナー社の名編集者パーキンズのもとに、大長編の小説が届けられます。帰宅途中の列車のなか、家まで歩きながら、帰宅後、そして会社に向かう列車のなかを使って読み上げたパーキンズは、ウルフを呼びつけて、出版を決めたことを告げます。これまで何件もの出版社に断られてきたウルフは大喜びし、アパートに戻ると、年上の愛人で、舞台美術家のアイリーン(ニコール・キッドマン)と吉報を分かちあいます(アイリーンは夫も子どもも捨てて、ウルフと同棲生活を送っています)。翌日から、ウルフとパーキンズは長すぎる小説を削っていく作業に入っていきます。数ヶ月かけて編集し、タイトルを決めて、本屋さんのショーウィンドーに本が並ぶと、またたくまに版を重ねる空前の大ヒットとなります(ウラヤマシイ)。パーキンスとウルフは2作目の執筆・編集作業に入るのですが、作業に没頭して家庭(と愛人)が二の次になり、パーキンズの妻(ローラ・リニー)は夫抜きで娘たちとバケーションに旅立ち、激情派(劇場関係者なだけに(^_^;))のアイリーンはウルフをなじり、パーキンズを自分から愛しい恋人を奪った相手として異常な敵愾心を抱くのでした。

ウルフは文章も長ければ口数も多いエキセントリックな人物で、ジュード・ロウの演技が大げさだと大不評です。映画自体も、あまり評価がよくなくて、舞台出身の監督の演出方法への批判が目立ちました。とばっちりでコリンの演技も「ぱっとしない」と言われてます。「ぱっとしない」と言われる理由のひとつは、この監督が、カメラレンズを通した俳優の顔演技を信用していないせいじゃないかと思います。画面作りがセピアを基調とした、光と影のツートーンライティングで、大事な場面をシルエットで見せるのが好きな印象を受けました。いい俳優ぞろいなのに、印象的な、あるいは美しい顔のカットがほとんどないのです。コリンもいい眼差しのカットが2、3あっただけで、あとはコリンもロウも、やけに老けが目立つカットばかり。ジュード・ロウは特に好きな俳優ではないけれど、昔は美形俳優でならしてて、キネ旬から出たムックの翻訳(この本。15年前だ!)を担当したので、衰えぶりがちょっと悲しいです。
劇中、パーキンズの妻が、「息子が欲しかったのにとうとう出来なかった夫のマックスにとって、ウルフは息子のようなもの」とアイリーンに言っていて、映評でも「疑似親子関係」とか「ブロマンス」とか書いてるんですが、ウルフとパーキンズの間にそういった親密なケミストリーは、まったく感じませんでした。(そもそもコリンとロウ、そこまで年齢離れてないし!) ウルフがパーキンズの自宅に招かれたときに、パーキンズに「いままで友だちがいなかったんだ。あんたが初めてだ」みたいなことを言うんですが、それまでに、ふたりの間の友情の芽生えを感じさせるようなシーンはまったくなかったので、唐突過ぎて「はあ?」となります。
実際の編集作業をわりと描いている映画で、特に、ある表現をめぐって、ウルフとパーキンズがニューヨークの街を徘徊しながらどんどん簡潔な表現に落としこんでいくシーンなど、みどころはあるのですが、いかんせん、やりとりの聞き取りに意識を集中しなきゃいけなかったもので、場面場面をじっくり味わうところまで行けませんでした。だから上記の印象も、見直したら違ってくるかもしれません。

映画がはじまってすぐ気がつくのが、パーキンズがずっと帽子をかぶりっぱなしなところ。パジャマ姿になってもまだ被ってます。これが史実に基づくものなのかどうかしらないけど、ウルフが冷蔵庫をテーブル代わりに原稿を書いていたのは有名なエピソードのようです。最後のシーンで、やっとパーキンズは帽子を取ります。

ニコール・キッドマンとコリンは、これで三度目ぐらいの共演になるのかな。「レイルウェイ」では夫婦の役でしたが、今回はライバル関係です。アメリカの映評では、まーたイジギリス人やオーストラリア人が実在のアメリカの文化人を演じてるーって愚痴ってました(^_^)。

上映中、一度若い女の子の声で「キャッ」って大きな悲鳴があがって、なんだなんだ、観客はシニアだけのはずなのに、って不思議だったのですが、上映後、場内が明るくなって、声の主が判明しました。老嬢二人組が、小犬連れで観に来ていたのです。ペット持ちこみOKなんかい(^_^;)


日本では、『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』の題で、10月公開だそうです。

映画館のロビーに、『海街ダイアリー』"Our Little Sisiter"のポストカードがおいてあってうれしい。この映画館、是枝監督作は結構律儀に上映するんだよね。

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