2017年11月3日金曜日

“The Florida Project”『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

母親と2人で紫色のモーテル「マジック・キャッスル」に暮らす6歳の少女、ムーニーが過ごすひと夏を描いたインディ映画です。

ファーストシーンで、ムーニーと友達の男の子スクーティが階段下の地べたに足を投げ出して座り、退屈そうに左右の靴先を合わせてコツコツ鳴らしています。仲間がもうひとり来ると、たーっとかけだし、お向かいのモーテル「フューチャーランド」に行き、2階の手すりに腰掛けて駐車場の車につばを飛ばしっこして遊びます。下の部屋から出てきたおばさんが子どもたちをしかっても言うことを聞かないので、モーテルの管理人ボビー(ウィレム・デフォー)を通し、子どもの母親へ苦情を訴えます。細っこい全身に入れ墨を入れ、下唇にピアスをして毛先を緑色に染めた年若い母親のヘイリーは悪びれず、「わたし母親失格だって、ムーニー」とにこにこ。結局ムーニーたちは車のふき掃除をしますが、それすら楽しいお遊びにしてしまい、文句を言った女性の孫ジャンシーも一緒にふきはじめる始末。



映画はムーニー、スクーティ、ジャンシーの悪ガキ3人組がモーテル内や近所で気ままに遊ぶ様子を中心に、特に起承転結もなく、2時間ちょい続きます(中だれするというレビューもありますが、しそうでしませんでした)。パープル色のモーテルはじめ、けばけばしい色合いや子供だましの形をした店舗がぽつんぽつんと立つ界隈は、ムーニーたちにとっては楽しい遊び場。アイスクリームの形をしたアイスクリーム屋さんでお客さんに小銭をせびったり、廃屋になったモーテルに入りこんで暖炉で火を燃やして火事騒ぎを起こしたり(それのせいでヘイリーと下の階に住むママ友との間に亀裂が入る)、湿地帯で牛の群れに遭遇したり、コの字形になったモーテルの長い廊下を走ったり、ボビーに禁止された部屋に侵入したり。「ここは入っちゃいけない部屋なの。でも入っちゃうもんね」。ムーニーはかわいい女の子だけど、悪賢く活発な、始末に負えない6歳のガキ大将です。

題名の「フロリダ・プロジェクト」は、ディズニー・ワールド構想時の呼称から。ヘイリーとムーニーが住む「マジック・キャッスル」は、ディズニー・ワールドから目と鼻の先に実在するモーテルなのです。『ぼくと魔法の言葉たち』のオーウェンも愛してやまない「世界一幸福な場所」のお膝元では、リーマンショックで家を失った人や、まともな職にありつけないヘイリーのような人々が、安モーテルの一室に家族で身を寄せあい、なんとか毎週の部屋代をひねり出すために悪戦苦闘しているのでした。

映画でとりあげられることのない、そのような題材に目を向けたのは、全編をiPhoneで撮った『タンジェリン』等で注目されたショーン・ベイカー監督。35mmフィルムで撮った本作はカンヌ映画祭やトロント映画祭で評判を呼び、Rottenn Tomatoでは95%の非常に高い評価を得ています。最後のシーンだけはiPhoneで撮られたのですが、それには理由があります。その理由を感じとれたかどうか(必ずしも意識せずとも共鳴するものがあったか)で、かなり唐突な終わり方に対する印象が異なるかもしれません。

まだ2ヶ月ありますが、これは「今年の一本」になるかも。去年の『ムーンライト』のようにズーンと来たり、登場人物たちに過度に思い入れたりはしないけれど、観たすぐ後に、もう一度観たくなってしまう。監督は、わざとハリウッド映画の定石である3パートによるストーリー作り(序破急的な)を避けたそうですが、それとあの尻切れトンボな終わり方のせいで、はじまりがあり終わりがある一本の映画ではなく、ムーニーが主人公のバーチャルリアリティの世界に、2時間ばかり浸ってきたような感覚です。登場人物たちを後ろから追うカメラワークも、ちょっとそんな感じを助長しているかな。ムーニーの顔が切れてる映画ポスター、面白いですよね。奇しくも製作は、『ムーンライト』と同じA24スタジオ。

ムーニー役のブルックリン・プリンスちゃんが、超すばらしいです。お母さんが演技コーチの仕事をしていて、よいアドバイスをもらったとか。素顔のブルックリンはいつも上機嫌で怒ったり泣いたりしないけど、映画の終盤で1回だけムーニーが泣きだす場面があり、撮影後1週間半で早々に撮らなくてはいけなかったのに、ちゃんと泣けたそうです。なかよしのジャンシー役の子が話しかけても、「今泣かなきゃいけないから」と待ったをかけたんだ、と監督が感心していました。本人によると、「泣けなかったら目薬を指さなきゃいけないんだけど、それすごくスースーするからイヤだったの」だそうです。ムーニーの泣き顔は未来少年コナンぐらいインパクトあるし(もっとましな形容はないのか)、見つめるジャンシーの、いつも受け身な子の思いがけない反応が、もう……ムーニーがトム・ソーヤーだとしたらジャンシーは忠実な相棒のハック・フィンでした。

ヘイリー役は、監督がインスタグラムで見初めた、演技初経験のブリア・ヴィナイテ。

ネットには監督インタビューとかの映像がたくさんあって、数本みただけでも本編より時間がかかってしまいました。
デフォーのインタビューは初めて見ましたが、役柄と違って優しい感じです。自分のチャームポイントとして優しかったり気さくだったりするんじゃなくて、根っからそういう人柄っぽいです。あと全国民歯が命のアメリカ人にしてはみそっ歯なのが親近感持てたり。

インタビューによると、素人ばかりの配役のなかで、デフォーはなるたけプロの俳優臭を消して、浮かないように気をつけたそうです。スクーティ役の男の子は、「グリーン・ゴブリン(『スパイダーマン』でデフォーが演じた役)と仕事できる!」って大喜びだったとか。ボビー役、素晴らしかったです。もめごとを起こしてばかりのヘイリーとはしょっちゅうやりあったり、部屋代が払えなくなったら追い出すぞ、と口癖のようにいいますが、住人たちにとってここが「最後の砦」ならぬ「最後のお城」なのを痛いほどわかっている。とはいえ見上げるほどnonaplogeticなヘイリーに堪忍袋の緒を切らすこともあります(オフィスを追い出されてカッカきたヘイリーが、お返しになにやら股間をごそごそまさぐって、振り返りざまオフィスのガラスにナプキンを投げつけるのが強烈!)絶対に謝らないヘイリー(謝ったら負け)は、親友のママ友とけんかしたときも謝る代わりにぼこぼこに殴っちゃいます。そんなヘイリーや悪ガキのムーニーが、最後にしっぺ返しを食らう場面の証人になるのを観客は期待するわけですが、凡百の作品ならばそうなるところを、ベイカー監督はその陥穽に陥らず(ハック、じゃなくジャンシーを配置することで)、そこが高い評価を受けている理由のようです。この映画を特別な一本だと書いている評者が何人もいました。デフォーは、本作で扱っているような人々、世界の存在をまったく知らなくて、勉強になったと言っています。

ヘイリーたちが、広場で花火見物する場面が好きだったな(花火好き)。ヘイリーはむかつくキャラのフラグが立っていますが、演じているブリアの声としゃべり方には癒やし効果があります。
モーテルにペンキを塗っていたボビーが、庭で遊んでいるムーニーたちにちょっかいを出す不審な老人を目にして、動揺してペンキをひっくり返す場面も好きです。ボビーのシーンはどれも素晴らしいのですが(あーまた観たくなった)。

撮影はモーテルの一部を借りて行われ、ウィレム・デフォーらスタッフ・キャストはそこで寝泊まりしたそうです。撮影の合間も営業していたため、ロビーのシーンを撮影中、お客さんが部屋を借りに入ってくるようなこともあったとか。モーテルの入り口付近をうろつく3羽のカナダヅルをボビーがそっと追いたてる場面があるのですが、やっぱりあそこは予期せぬ珍事だったそうです(カナダヅルは絶滅危惧種なので、ちょっかいを出してはいけません)。モーテルの近くからしょっちゅう小型のヘリが飛び立ってましたが、それも演出でなくてそういうロケ地だったのね。

監督インタビューも見ました。映画を観て、もっと年季の入った監督が撮ったのかと思ったら、案外若いです。46歳だそうです。前作をiphoneで撮ったという記事を読んで、とんがった人なのかとも思いましたが、そういうところも全くありませんね。本作を撮るにあたり、ずいぶんリサーチしたそうです。ボビー像は、インタビューしたモーテルのマネージャーが反映されていて、彼らは仕事にプライドを持っているんですって。今回35mmで撮ったのは、セルロイドによる撮影手段を残したいという理由もあったそうです。iphoneで全編を撮った自分が言うのも皮肉だけどって。でも、だからこそ、フィルター等でどうやっても、出せない有機的なものがセルロイドにはあるのをわかっている、と。あと、利点として、子役の子に、「集中して演じてくれないと、その分お金が無駄になるんだよー」と脅せたのがよかったそうです。☺️ 監督は、1930年代にハル・ローチ監督が撮った短編シリーズの”Little Rascals (Our Gang)”を目指したのだそうです。やっぱり、大恐慌時代の話なんだけど、子どもたちはそんなこと関係なく走り回ってるって。

ハロウィーンの夕方に観たのですが、上映前に、黒猫の仮装をした従業員が、非常口の説明等のあいさつをしました。そんなことを初めてで、ハロウィーンだからかなあ? 観客は見事に高齢の方々ばかりだったので、孫と娘を見るみたいな感覚で観ていたんだろうな。唐突な終わり方にみんな面食らって笑っていました。

上映館のNickel Odeonでも同系列のDel Mar同様、Movie Passは使えませんでした。アプリに載ってるんだけど、って聞いてみたら、「はずすように交渉中なんだ」と言っていました。メジャー映画をかけるシネプレックスでは使えるけど、わたしはどちらかというと、インディ映画をかけるこことDel Marがリストに入っていたから、登録したんだけどなぁ。いざ使う段になって使えないのは、詐欺だよな。やれやれ。使えたら、何回も観たかったなあ。

今度『タンジェリン』を観てみよう。


*おまけ*

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